インド人のアルツハイマー病発症率が、アメリカ人の約4分の1――。
この“謎”に着目したのが、薬学者・脳科学者の杉本八郎氏です。
杉本氏は製薬会社エーザイで数々の実績を残したのち、自身の会社「グリーン・テック」を設立。インド人が日常的に食べるカレーに含まれるスパイス「クルクミン」に注目し、認知症予防につながる新薬開発に取り組みました。
驚くべきことに、クルクミンを与えたマウスの脳内では、認知症の原因とされるアミロイドβの凝集が抑制され、記憶力の改善も見られたのです。
しかしクルクミンは高分子のため、通常は脳まで届きません。そこで杉本氏は、クルクミンと同様の作用を持ち、かつ脳に届く“低分子”化合物「GT863」の開発に成功しました。
このGT863には、アミロイドβだけでなく、もう一つの認知症原因物質「タウタンパク質」の凝集も抑制する働きが確認され、まさに画期的な発見となっています。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)やプリオン病といった他の難病への効果も期待されており、幅広い可能性が見込まれています。
GT863は2025年現在、臨床研究を前にした段階であり、2033〜2035年の薬品化を目指しています。コストは年間50万円と、既存薬の6分の1以下。経口服用可能な点も、使用者にとって大きなメリットです。
杉本氏の挑戦は続きます――「薬は逆さに読めば“リスク”。だからこそ、本気で挑戦しなければならない」。
92歳まで現役で走る、その覚悟が、新しい医療の扉を開こうとしています。
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