― 9年ぶりの豊作の裏にある、光と影 ―
今年、日本のコメ作りは9年ぶりの“当たり年”。
全国の予想収穫量は 747万トン――去年より68万トンも増えました。
それなのに、価格はなぜか高止まり。
魚沼の農家たちの現場には、豊作の喜びと、複雑な現実が同居していました。
💰「宝の山だよ!」――魚沼の関さん、過去最高の収穫
新潟・魚沼市。
90ヘクタールの田んぼでコシヒカリを育てる 関隆さん(73) は、笑顔を見せます。
> 「コメがいっぱいあるろ!“宝の山”だよ!おととしに比べて価格が2倍!!」
1トンあたり70万円。
今年の収穫量は過去最大の 330トン。
酷暑の夏を乗り越え、魚沼ブランドの力を改めて感じているといいます。
> 「この品質なら、魚沼のコシヒカリはまだまだ勝負できる。」
📈 収穫増なのに価格が下がらない理由
農水省によると、今年のコメは豊作にもかかわらず、平均価格は5kgあたり4205円。
都内のスーパーでは 1袋5000円 を超えるものも。
理由の一つは、農協が農家に支払う「概算金」の上昇です。
夏の段階で「不作かも」という不安が広がり、JAや業者が“争奪戦”を繰り広げた結果、
仕入れ価格が上がってしまったのです。
> 「今さら余っても、値下げは難しい」
> (流通経済研究所・折笠俊輔研究員)
倉庫にはコメがあふれ、売り先を探す農家も増えています。
新潟のある農家は「保管料を払ってまで倉庫を借りている」と嘆きます。
🧭 大規模化の波、そして別れ
そんな中でも前を向く関さんは、来年さらに田んぼを拡大予定。
作業場を中心に 東京ドーム1個分の規模 に広げる計画です。
> 「10年後、20年後、俺はいなくても、ここが全部うちの田んぼになってるはず。」
しかし、拡大の裏では、田んぼを“手放す農家”も。
😔 「体が動かねぇのが一番つらい」――小林さんの決断
同じ魚沼市で40年以上、兼業でコメを作ってきた 小林俊一さん(76)。
4年前にステージ4の肺がんを宣告され、去年から田んぼ1.2ヘクタールを関さんに託しました。
> 「がんって言われた時より、自分で田んぼができねぇ時のほうがつらかった。」
息が続かず、畔の草刈りも追肥もできなくなった。
それでも最後まで「農家でいたい」と思っていた――
そんな思いが言葉の端々ににじみます。
関さんも、その気持ちを痛いほどわかっていました。
> 「小林さんが貸してくれるから、今の面積をやれている。感謝しかない。」
けれど、経営者として、離れた田んぼをどう維持するか――
頭を悩ませる日々が続いています。
🌱 「俺は立ち止まりたくない」
関さんは静かに語ります。
> 「あと10年もすれば、農家の平均年齢は80歳。
> 作る人がいなくなるんだよ。
> だから俺は、立ち止まりたくない。」
“宝の山”の陰で揺れる、農家たちの想い。
それは、「稲を育てる」ことと同じくらい、地域の未来を支える営みなのかもしれません。
✨ 編集後記
豊作でも、笑う人ばかりではない。
手放す人の涙の上に、次の世代の田んぼが広がっていく。
日本の田んぼには、そんな静かなドラマが息づいています。
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