― カワウ急増で釣り人半減、人と自然のせめぎ合い ―
静岡県・伊豆を流れる狩野川(かのがわ)。
透き通る清流と豊かな自然が広がるこの川は、かつて“アユ釣りの聖地”と呼ばれ、多くの釣り人が訪れていました。
しかし今、その狩野川に異変が起きています。
その原因となっているのは――黒い羽を広げて飛ぶ、大型の水鳥「カワウ」です。
🦆 「ライバルが多すぎる」――釣り人たちの嘆き
10月中旬の狩野川。穏やかな陽射しのもと、川面は静かに流れています。
けれど、その風景の中に釣り竿を構える人の姿はまばらです。
アユ釣り歴40年というベテラン釣り師の男性は、ため息をつきながら話しました。
> 「ここんとこ、狩野川はずっと釣れてないんだ。
> みんな食われちゃってる。困るよね、ライバルが多くて。」
その“ライバル”とは、川の中央で群れを成して泳ぐ30羽以上の黒い影――カワウです。
🐦 1日で30匹も食べる!? カワウの脅威
カワウは体長約80センチ、翼を広げると1メートルを超える大型の水鳥。
潜水が得意で、魚より速く泳ぎ、1日に10〜30匹もの魚を食べるといわれています。
日中は狩野川で狩りをし、夕方になると静岡県東部の山林に戻る――。
その生活リズムを繰り返しながら、群れで行動するのです。
静岡県の調査によると、県内のカワウの数はこの10年で倍以上に増加。
長岡技術科学大学の山本麻希准教授は、その背景をこう説明します。
> 「1970年代には全国で約3000羽しかいませんでした。
> ですが、駆除などで居場所を追われた群れが、
> いた地域からいなかった地域へと次々に広がっていったのです。」
その結果、アユが豊富に棲む狩野川にも、カワウが定着するようになりました。
💸 年間被害5000万円 “聖地”が泣いている
漁協の試算では、カワウによる漁業被害は年間約5000万円にのぼるといいます。
この5年で釣り人の数は半減し、かつてのにぎわいは影を潜めました。
川沿いの店や地元の人々は、懸命に対策を続けています。
ロケット花火や運動会用のピストル音で追い払うなど、手を変え品を変えながら努力を重ねています。
おとり店「アルバトロス」を営む鈴木充さんは、悔しさをにじませながら語ります。
> 「東京や横浜から来るお客さんのために、
> カワウを降ろさないようにがんばってるんです。
> 絶対に減ってほしいですよ。」
🎯 GPSで追跡、ニジマスでおびき寄せ――それでも届かない手
狩野川漁業協同組合では、県の許可を得てカワウにGPSを装着。
その行動範囲やねぐらを調べ、効率的な駆除や対策に役立てようとしています。
この日は、おとりのニジマスに針を付けておびき寄せる作戦を試みました。
しかし、結果は――。
> 「全然来ない。運次第なんですよ。
> カヤックが通るタイミングで逃げちゃったり…。
> ほんと、運が悪かったですね。」
> (漁協関係者・梅原朋也さん)
自然との駆け引きは、思うようにいきません。
カワウの警戒心は強く、人の動きを少しでも察知すればすぐに飛び去ってしまいます。
🌅 「立ち止まらず、続けるしかない」
間もなく、アユ釣りのシーズンが終わります。
それでも関係者たちは、次のシーズン――2026年の解*に向けて歩みを止めません。
狩野川漁業協同組合の井川弘二郎組合長は、静かに言いました。
> 「まずはカワウの動きを知ること。
> それがわからなければ、どう対策していいのかも見えてこないんです。」
カワウとアユ、そしてそれを見守る人たち。
それぞれが“生きるため”に川と向き合っています。
🎣 :魚も、人も、生きる場所を探している
アユも、カワウも、生きるために川へやってくる。
人間もまた、その自然の中で釣りを楽しみ、暮らしを営んでいる。
結局、争っているようで、みんな「ここで生きたい」と願っているだけなのかもしれません。
“聖地”と呼ばれた狩野川が再び笑顔で満ちる日――
それは、人が「奪う」よりも「共に生きる」道を選んだときに訪れるのかもしれませんね。
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