♨️ 日本の温泉に眠る「生命誕生の秘密」

 ― 太古の地球と現代の温泉をつなぐ、東京科学大学の発見 ―

日本の温泉が、地球における生命誕生の謎を解く鍵になるかもしれません。

東京科学大学・地球生命研究所(ELSI)の研究チームが、鉄を多く含む温泉を調査し、

酸素がほとんど存在しなかった太古の地球で、生命がどのように生きていたのかを探りました。

その結果、私たちの身近な「温泉」という環境が、地球最初の命の姿を映し出している可能性があることがわかったのです。

研究成果は、学術誌『Microbes and Environments』に掲載されています。

 🌍 酸素のなかった地球で生まれた命

およそ23億年前。

地球の大気には、ほとんど酸素が存在しませんでした。

動物も植物もいない世界で、生命にとって酸素は“毒”のような存在だったのです。

そんな中、太陽の光を利用して酸素を生み出すシアノバクテリア(ラン藻)が登場します。

この出来事は「大酸化イベント(Great Oxidation Event, GOE)」と呼ばれ、

地球史における最大級の転換点となりました。

しかし、その前後の時代、生命はどのように生き延びていたのか?

酸素がない世界で、どのようにエネルギーを得ていたのか?

その答えを探る手がかりが、日本の温泉にあったのです。

 ♨️ 日本の温泉が再現する太古の海

研究チームは、東京・秋田・青森にある5つの温泉を調査しました。

これらの温泉は鉄(Fe²⁺)を多く含み、酸素濃度が極めて低いという共通点を持っています。

まさに、23億年前の「太古の海」に近い化学環境を保っているのです。

調査の結果、低酸素環境で鉄をエネルギー源にする鉄酸化細菌が多く存在していることが判明しました。

さらに驚くべきことに、

酸素を生み出すシアノバクテリアと、酸素を嫌う嫌気性微生物同じ環境で共存していたのです。

まるで、太古の海で異なる生物たちが共に生き、

互いに影響を与えながら進化していった姿が、現代の温泉に再現されているかのようです。

 🔬 微生物たちが紡ぐ“原始の生態系”

さらにメタゲノム解析によって、200種類以上の微生物の遺伝子情報が明らかになりました。

これらの微生物たちは、鉄とわずかな酸素を使ってエネルギーを作り出すだけでなく、

炭素・窒素・硫黄といった元素の循環を保ちながら生態系を築いていました。

特に注目されたのが、温泉の水中に硫黄化合物がほとんどないにもかかわらず、

硫黄を利用する代謝経路が存在していた点です。

研究チームはこれを「隠れた硫黄循環(cryptic sulfur cycle)」と名付けました。

見えないところで複雑に絡み合った代謝ネットワークが働き、

初期の地球では、微生物同士が互いの代謝産物を利用し合うことで生命の基盤を築いていたのです。

 🚀 温泉から宇宙へ――生命の物語は続く

今回の研究は、光合成生物が生み出した酸素を別の微生物が利用するという、

生命の共生の起点を描き出しました。

地球の生命は、単なる競争ではなく、共生と再生の連鎖の中で進化してきたのです。

そしてこの発見は、地球だけでなく、

鉄に富む火星のような惑星でも生命が存在し得る可能性を示唆しています。

もしかすると、温泉という身近な環境こそが、

宇宙に広がる生命の“共通のゆりかご”なのかもしれません。

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## 🌌 結び:湯けむりの向こうにある生命の記憶

私たちは、温泉の湯の中に、**生命の始まりの記憶**を見ています。

そのぬくもりの中には、太古の海の息づかいが、今もそっと残っているのです。

もし宇宙のどこかにも、同じように温かな泉が湧いているのなら──

そこにも命は、静かに、確かに、息づいているのかもしれません。


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